UV-C (深紫外線) 殺菌製品の安全設計

UV-C 殺菌製品の安全設計

新型コロナウイルス COVID-19 の流行以降、 UV-C (200-280 nm の波長をもつ深紫外線) を放射することによって、殺菌・ウイルスの不活化をおこなうことを意図した製品を目にする機会が急激に増えました。

効果的かつ安全に機能を発揮できる製品が広く流通することが望まれますが、残念ながら、ECサイトなどインターネット上には十分な安全対策が取られていないと思われる製品が散見されます。

本ページでは、UV-C 光源を搭載する製品の安全確保において特に留意すべき点を簡単にまとめます。

UV-C の波長範囲について

短波長側を 180 nm からとするなど、200 nm 未満の波長も UV-C に含める場合がありますが、本ページでは UV-C 照射を取り扱う安全規格において一般的に評価対象としている 200 nm 以上の波長範囲を意図して記述しています。これは、波長 200 nm 未満の光は空気中での吸収が大きく、通常の環境ではほとんど人体へ到達しないことに拠ります。

低圧水銀ランプなど、光源の種類によっては 200 nm 未満のスペクトル成分も含んだ光が放射されますので、製品特性に応じた安全対策をおこなってください。

UV-C 殺菌製品のリスク・危険性

UV-C 放射は、適切に用いれば殺菌やウイルス不活化の効果が期待できますが、人体に有害な側面もあるため、適切な設計によりリスクを低減することが求められます

UV-C を放射する製品特有のハザード(危険源)は、大きくは次の2点に集約されます。

  • UV-C 放射に対する人体曝露
  • UV-C 放射によって生成された オゾンに対する人体曝露

UV-C 放射に対する人体曝露

人体へのダメージの程度は波長や曝露量によっても異なりますが、UV-C 放射への曝露は、目の炎症・損傷や、皮膚の日焼け様の症状 (紅斑) を引き起こすことが知られています。

UV-C 放射は肉眼で見ることができないため、時間あたりの曝露量が少なかったとしても、知らず知らずのうちに長時間にわたって曝露してしまう危険性もあります。

放射の強度や距離によっては短時間の曝露でも傷害につながるため、UV-C 放射が製品の筐体外へ漏れないように 設計できれば理想的です。特に、一般消費者が使用することを意図した製品では、そのような構造とすることは必須になるでしょう。

オゾンに対する人体曝露

オゾン自体にも殺菌効果があるため、うまく利用すれば製品の殺菌効果を高められる可能性があるものの、オゾンは有毒な気体であり、気中の濃度が高くなるほど人体に及ぼす傷害の程度も大きくなります。

UV-C 放射の中でも、短波長になるほど、空気中の酸素によく吸収されて多くのオゾンを発生させることが知られていますので、使用する光源のスペクトルによっては、一層注意が必要になります。

対策の方向性として、可能であれば オゾンを発生させる波長帯の UV-C 光源は用いない のがベストです。根本的にオゾンの発生を防ぐのが難しければ、気中濃度をできるだけ上げないようにする工夫をすることになります。

UV-C 殺菌製品に適用される安全規格

どの安全規格を適用すべきかは、対象の UV-C 殺菌製品がどのような製品カテゴリに属するものかにも依りますが、UV-C 放射の評価項目を含む代表的な IEC 規格としては、以下が挙げられます。

製品の種類安全規格の例
LEDやランプを光源とする機器IEC 62471
レーザを光源とする機器IEC 60825-1
空気清浄機(家庭・一般人向け)IEC 60335-2-65
紫外線照射式浄水器(家庭・一般人向け)IEC 60335-2-109

適用する安全規格を決定する際の留意点

IEC 62471 や IEC 60825-1 は光放射の評価のみを目的としている規格であるため、これらを適用するだけでは UV-C 殺菌製品における UV-C 放射以外の安全側面はカバーできません。機械的危険、感電、火災、熱、化学物質などの光放射以外の安全側面を適切にカバーするためには、他の製品安全規格と組み合わせて適用することが必要です。

例えば、オフィス設置用の機器に分類される製品であれば IEC 62368-1、業務用の機器であれば IEC 61010-1 などが適用規格の候補となってきます。

また、ここでは国際的な標準として IEC 規格を例に挙げていますが、製品を販売する国・地域によっても従うべき規格・技術基準が変わりうるという点には注意が必要です。

UV-C 殺菌製品の適合性評価試験

具体的な適合性評価の内容については個別の安全規格に規定されますので、実際の適用に当たっては各規格を参照してください。ここでは、 UV-C 殺菌製品に適用される特徴的な試験 を紹介します。

放射照度などの UV-C 測光試験

危険な量の UV-C 放射に人が曝露することを防ぐため、機器が放出する UV-C 放射の量を測定します。測定する物理量は規格によっても異なりますが、 放射照度 の測定を求められることが多いでしょう。

例えば、 IEC 60335-2-65 (空気清浄機) の箇条 32.102 では、機器から 300 mm 離れた位置において、 分光放射照度 を測定し、 200-280 nm の波長帯域における全放射照度(積分値)が 0.003 W/m2 を超えないこと等を要求しています。

オゾン濃度測定試験

UV-C 放射自体の量のほか、機器の UV-C 放射に伴って発生するおそれのあるオゾンの濃度測定も要求されることがあります。

同じく IEC 60335-2-65 (空気清浄機) の箇条 32.101 では、一定寸法の試験室の中において、機器の空気排出口から 50 mm の位置でサンプリングをおこない、オゾン濃度が 5 × 10-6 % を超えないことが要求されています。

UV-C 殺菌製品の設計留意点

前述の UV-C 放射への曝露防止 や、オゾンを発生させない波長の利用検討 といった点に加えて、以下のような点にも留意が必要です。

樹脂・プラスチック部材の劣化防止

一般に、UV-C 放射に晒された樹脂・プラスチック部材は劣化します。電気配線の被覆や、樹脂の筐体など、安全に関わる部材が劣化してしまうと、危険な事象につながることが懸念されます。

個別の安全規格において規定されていることも多いですが、 UV-C 放射に晒される部材については、劣化しない金属対候性のある樹脂 で構成するように注意が必要です。

樹脂の選定にあたっては、適用する安全規格が要求している UV 対候性の評価が実施済みか、あらかじめしっかりと確認しましょう。採用予定だった樹脂が、後になって UV 対候性評価に合格していないことが判明すると手戻りになります。

適切な安全情報の提供

本質的な安全設計により、特段の注意を払わなくても安全に取り扱うことができる設計とすることが理想ですが、機器の仕様によっては、使用や保守のための安全情報を提供すべき場合があります。

特に、一般消費者向けではない業務用の UV-C 殺菌製品の場合は、ユーザーやサービスマンが注意しなければならないことが比較的多いと考えられますので、十分な情報提供をおこないましょう。取扱説明書での記述だけでは注意喚起が足りない場合などでは、機器自体への警告ラベルの貼付も検討すべき手段となります。

UV-C 殺菌製品の安全ガイドライン

UV-C 殺菌製品に適用可能な安全ガイドライン について、GLA (Global Lighting Association) がポジションペーパーとして発表していますので、こちらも適宜参考にしてください。

また、日本照明工業会 (JLMA) から日本語訳・解説が公開されています。英語原文の技術的に誤っている点の指摘などもされていますので、合わせて確認されることを推奨します。

UV-C リスクグループの用語について

GLA の安全ガイドラインには「UV-Cリスクグループ」という用語が出てきますが、これは一般的に用いられている用語ではなく、 IEC 62471 で定義される「リスクグループ」とも異なるものです。

放射源のリスクの程度を表すという点では同じであり、名称も類似していて紛らわしいため、混同しないように注意してください。