米国 FDA (CDRH) のレーザ製品に対する要求
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米国 FDA (CDRH) のレーザ安全基準 21 CFR Part 1040
米国におけるレーザ製品に対する規制の内容は、主に 21 CFR Part 1040 に規定されています。規制当局は、FDA (Food and Drug Administration, 食品医薬品局) を構成する組織のひとつである、CDRH (Center for Devices and Radiological Health, 医療機器・放射線保健センター) です。レーザ製品を米国へ輸入し、販売をおこなうためには、製造者自身が、レーザ製品が安全基準に適合していることを確認した上で、各種レポートを CDRH へ提出しなければなりません。
CFRとは
"CFR" とは、"the Code of Federal Regulations" の略称で、米国の行政法に位置づけられるものです。日本語では「連邦規則集」と呼ばれます。"21 CFR Part 1040" とは、CFR の第21巻 食物と薬物 (Title 21: Food and Drugs) における、Part 1040 の部分を指します。
FDA (CDRH) レーザ規制 21 CFR Part 1040 の申請手順
- レーザクラスの決定
- レーザ製品から放射されるエネルギーレベル等に基づいてレーザクラスを決定します。
- 要求事項への適合確認
- レーザ製品が、21 CFR Part 1040 等に規定されている各要求事項に適合していることを確認します。Laser Notice No. 56 または No. 50 を利用する場合は、IEC 60825-1 の要求事項を代替して適用します。
- プロダクトレポートの作成・提出 (申請)
- 定められた書式に従い、CDRH へ提出するプロダクトレポートを作成し、提出します。
- アクセッションレターの受領
- プロダクトレポートが受理された証明として、CDRH からアクセッションレターを受領します。
アクセッションレターに記載されているアクセッションナンバーやプロダクトコードは、米国への輸入時に使用することがあります。
FDA は認証を出すわけではない
レポートの提出後に CDRH から送られてくるアクセッションレターは、あくまでレポートが受理されたこと自体を証明するレターであり、CDRH が認可や認証といったお墨付きをレーザ製品に対して与えるものではありません。CDRH はレーザ製品が安全基準に適合しているかを確認しませんので、製造者が責任をもって適合確認し、レポート作成をおこなう必要があります。
FDA (CDRH) へ提出・申請すべきレポートの種類
以下の表で「X」に該当する場合は、レポートを提出する必要があります。
製品 | プロダクトレポート (Part 1002.10) | サプリメンタルレポート (Part 1002.11) | アニュアルレポート (Part 1002.13) |
クラスIレーザ製品 (クラスIレーザを内蔵するもの) | X | X | |
クラスIレーザ製品 (クラスIIa, II, IIIaレーザを内蔵するもの) | X | X | |
クラスIIa, II, IIIaレーザ製品 および クラスIIa, II, IIIaレーザを内蔵する製品 (クラスIレーザ製品を除く) | X | X | |
クラスIIIb, IVレーザ製品 および クラスIIIb, IVレーザを内蔵する製品 | X | X | X |
最終製品としてのレポート提出・申請の必要性
内蔵しているレーザ製品(レーザセンサ、レーザ変位計やレーザマーカー等)が、部品としてFDA申請済みであり、アクセッションナンバーを取得しているとしても、その部品を組み込んだ最終製品もまた、レーザ製品であるため、原則として、最終製品として FDA (CDRH) にレポートを提出し、アクセッションナンバーを取得する必要があります。
プロダクトレポート (Part 1002.10)
- 規制要求の各項目に対して、レーザ製品がどのように適合しているのか、を説明するレポートです。
- レーザ製品のラベル、取扱説明書、カタログ、光学設計、レーザクラス分け、安全機能、品質管理手順などについて記載する必要があります。
- 設計や機能などが類似するモデルについては、ファミリーモデルとしてまとめて報告することが認められています。
サプリメンタルレポート (Part 1002.11)
- 提出済みのプロダクトレポートを補足するためのレポートです。
- 新しい派生モデルを追加報告する際に提出します。
- そのほか、レーザ製品の設計や品質管理手順など、プロダクトレポートで報告した内容に変更が生じた場合に提出します。
アニュアルレポート (Part 1002.13)
- 毎年6月30日までの1年間を対象期間として、レーザ製品の販売数量や製造状況、品質管理の状況などを報告します。
- 提出期限は、毎年9月1日です。
FDA (CDRH) レーザ規制 21 CFR Part 1040 の概要
ここでは、米国 FDA (CDRH) 21 CFR Part 1040 に基づいたレーザクラスの分類と、レーザ製品に要求される安全対策機能の概要について、まとめています。
Laser Notice No. 56 / No. 50 について
Laser Notice No. 56 または No. 50 の規定を利用して、IEC 60825-1 の基準に基づいて適合確認をおこなう場合、FDA (CDRH) の安全基準のうち代替される部分は適用されません。以下に概要を記載してはいますが、実務上、FDA (CDRH) の安全基準を適用するメリットは少ないため、特殊な事情が無い限り、FDA (CDRH) 独自のレーザクラス分類や、安全対策機能・ラベル等の要求事項について詳細を理解する必要はないでしょう。
IEC 60825-1 の基準に基づくレーザクラス分類や安全対策機能・ラベル等の要求については、以下のページを参照してください。
FDA (CDRH) のレーザクラス分類
FDA 21 CFR Part 1040 に基づくレーザクラスは、以下の通り、クラスI~クラスIVに分類されます。分類の基準は、IEC 60825-1 のクラス1~クラス4とは異なるものです。
レーザクラス | レーザクラスの説明 |
クラス I | レーザ放射が危険とはみなされないレーザ製品。 |
クラス IIa | 1,000 秒以下の観察は危険とはみなされないが、1,000 秒を超える慢性的なビーム内観察は危険とされるレーザ製品。 波長 400~710 nm の可視帯域レーザに適用されうる。 |
クラス II | 慢性的なビーム内観察は危険とされるレーザ製品。 波長 400~710 nm の可視帯域レーザに適用されうる。 |
クラス IIIa | 放射照度の程度によるものの、慢性的なビーム内観察も、一時的なビーム内観察も危険とみなされるレーザ製品。また、光学機器で直接ビームを観察することは短時間であっても危険とされる。 波長 400~710 nm の可視帯域レーザに適用されうる。 |
クラス IIIb | 短時間であっても皮膚や目への直接のばく露は危険とされるレーザ製品。 |
クラス IV | 皮膚や目への直接のばく露だけでなく、散乱光への短時間ばく露も危険とされるレーザ製品。 |
レーザクラスの説明について
上記のレーザクラス説明は、21 CFR Part 1040 の記載を翻訳・要約したものです。
詳細については、原文をご確認ください。
FDA (CDRH) のレーザ安全対策機能要求
箇条 | 要求事項 | クラス I | クラス IIa | クラス II | クラス IIIa | クラス IIIb | クラス IV |
1040.10 (f)(1) | 保護筐体 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
1040.10 (f)(2) | セーフティインターロック | △ | △ | △ | △ | △ | △ |
1040.10 (f)(3) | リモートインターロックコネクタ | ー | ー | ー | ー | ○ | ○ |
1040.10 (f)(4) | キーコントロール | ー | ー | ー | ー | ○ | ○ |
1040.10 (f)(5) | レーザ放射エミッションインジケータ | ー | ー | ○ | ○ | ○ | ○ |
1040.10 (f)(6) | ビームアッテネータ(減衰器) | ー | ー | ○ | ○ | ○ | ○ |
1040.10 (f)(7) | 制御部の位置 | ー | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
1040.10 (f)(8) | 観察用光学装置 | △ | △ | △ | △ | △ | △ |
1040.10 (f)(9) | 走査に対する安全防御 (スキャニングセーフガード) | △ | △ | △ | △ | △ | △ |
1040.10 (f)(10) | マニュアルリセット | ー | ー | ー | ー | ー | ○ |
○:必要
△:条件による
ー:不要
FDA (CDRH) のラベル・情報提供要求
箇条 | 要求事項 | クラス I | クラス IIa | クラス II | クラス IIIa | クラス IIIb | クラス IV |
1010.2 | 証明ラベル | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
1010.3 | 識別ラベル | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
1040.10 (g)(1),(2),(3) | 警告ラベル | ー | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
1040.10 (g)(4) | 放射出力情報 | ー | ー | ○ | ○ | ○ | ○ |
1040.10 (g)(5) | 開口ラベル | ー | ー | ○ | ○ | ○ | ○ |
1040.10 (g)(6) | インターロックの無い保護筐体に対するラベル | △ | △ | △ | △ | △ | △ |
1040.10 (g)(7) | インターロックを無効化できる保護筐体に対するラベル | △ | △ | △ | △ | △ | △ |
1040.10 (g)(8) | 可視・不可視放射に対する警告 | △ | △ | △ | △ | △ | △ |
1040.10 (h)(1) | 使用者に対する情報 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
1040.10 (h)(2) | 購入およびサービスのための情報 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
○:必要
△:条件による
ー:不要
FDA (CDRH) Laser Notice No. 56 / No. 50
上述の通り、米国のレーザ安全基準は、IEC 規格に準拠した国際的な基準とは異なるものとなっています。市場のグローバル化が進む中で、同一の製品を複数の技術基準の両方に適合させたり、技術基準の違いを理由に仕向国ごとに仕様を分けたりすることが強いられており、製造者の負担となっています。FDA も規制内容が米国独自であることのデメリットは認識しており、将来的には国際基準に整合していくとされていますが、現時点で差異があるのは事実であるため、製造者には何らかの対処が求められます。
そのような状況の中、製造者の負担軽減のためのガイダンスとして告知されているのが、Laser Notice No. 56 および Laser Notice No. 50 です。IEC 規格に準拠しているレーザ製品に対しては、21 CFR Part 1040 の一部の規定が適用されず、実質的に IEC 規格の基準で米国の規制に適合できるというものです。
Laser Notice No. 56
2019年5月8日に発行されたガイダンスであり、これ以降、IEC 60825-1 Ed. 3 (IEC 60825-1: 2014) をもとに FDA のレーザ規制へ適合できるようになりました。21 CFR のどの Part が IEC 規格の箇条で代替され、どの Part が代替されず依然として適用必須なのか、はガイダンス中に記載がありますので、利用の際は漏れがないように注意してください。
当該規定を利用するレーザ製品は、下記の文言(一例)を証明ラベルとして製品上に表示する必要があります。
“Complies with 21 CFR 1040.10 and 1040.11 except for conformance with IEC 60825-1 Ed. 3., as described in Laser Notice No. 56, dated May 8, 2019.”
Laser Notice No. 50
このガイダンスは、2007年6月24日に発行されました。IEC 60825-1 Ed. 1.2 (IEC 60825-1: 2001) または IEC 60825-1 Ed. 2 (IEC 60825-1: 2007) の要求事項で 21 CFR Part 1040 の規定を代替することができます。
Laser Notice No. 50 を利用するレーザ製品の証明ラベルには、下記文言(一例)を表示する必要があります。
”Complies with 21 CFR 1040.10 and 1040.11 except for deviations pursuant to Laser Notice No. 50, dated June 24, 2007”
Laser Notice No. 50 の取り下げ予定
2023年6月7日付の FDA (CDRH) からの通知(外部リンク)において、 Laser Notice No. 50 は2024年12月31日に取り下げられる予定であり、Laser Notice No. 56 に移行する必要があると告知されました。今後、IEC 規格の基準で 21 CFR Part 1040 へ適合させる場合は、Laser Notice No. 50 ではなく、Laser Notice No. 56 を利用することが必要となります。
Laser Notice No. 50 の取り下げに関するFAQ
FDA (CDRH) のFAQ(外部リンク)で、 Laser Notice No. 50 の取り下げにともなう質問と回答が掲載されていますので、以下に参考訳を記載します。正確な情報については、原文を参照してください。
Q29) Laser Notice No. 50 の取り下げ決定は最終通知ですか、それとも暫定情報ですか。
2014年、国際電気標準会議(IEC)はIEC 60825-1:2014(第3版)を発行し、その後、Laser Notice No. 50のベースとなった IEC 60825-1:2007(第2版)を取り下げました。FDAが発表したLaser Notice No. 50の取り下げは、2024年12月31日の発効日までに品質試験プログラムを調整するための十分な通知を産業界に提供することを意図しています。この発効日までは、製造業者はLaser Notice No. 50を使用してレーザ製品の証明を継続することができます。しかしながら、製造業者は、21 CFR 1040.10および1040.11のFDAレーザ規格か、Laser Notice No. 56を用いた規格に自社のレーザ製品を準拠させて証明する準備を始めることが推奨されます。
Q30) Laser Notice No.50 の下で報告済みの製品について、Laser Notice No.56 の下でプロダクトレポート / サプリメンタルレポートを再提出し、製品の証明ラベルを変更する必要がありますか?
いいえ、プロダクトレポートやサプリメンタルレポートを再提出する必要はありません。ただし、Laser Notice No. 56 を使用して製品を証明した結果、貴社のレーザ製品の適合性が変更された場合は、最初のプロダクトレポートまたはサプリメンタルレポートからの変更点を記載した、サプリメンタルレポートを提出してください。そのような変更は、クラス分け及びラベリング(Laser Notice No. 56に従った証明ラベルを含む)のための更新されたエミッション値を含むような最小限のものから、新しいレーザクラスへの変更及び対応する性能機能、ラベル、品質試験プログラム及びユーザー情報などの変更を報告するような大規模なものまであります。
証明ラベルの変更の必要性
証明ラベルを変更する必要があるのかどうかについては、直接的な回答がありません。Laser Notice No. 50の取り下げ後に、Laser Notice No. 50を用いて証明することが認められていないことを踏まえると、2025年1月1日以降の製造分は、21 CFR 1040.10および1040.11のFDAレーザ規格か、Laser Notice No. 56を用いた規格に準拠している旨の証明ラベルに変更しなければならない、と解釈するのが自然そうです。
Q31)Laser Notice No. 50 が有効である間に既にレポートが提出された製品は、取り下げ後も21 CFR Part 1040の性能要件に適合しているとみなされますか?
2024年12月31日までにLaser Notice No. 50を使用して適切に証明されたレーザ製品は、取り下げ日以降も適合しているとみなされます。2024年12月31日より後に証明されたレーザ製品は、21 CFR 1040.10および1040.11に記載されているFDAレーザ性能規格に準拠しない限り、または、Laser Notice No. 56で指定された21 CFR 1040.10および1040.11と同等と見なされるIEC 60825-1 Ed. 3およびIEC 60601-2-22 Ed. 3.1の関連部分に準拠して証明されない限り、FDAのレーザ性能規格に適合していると見なされません。
Q32) 取り下げ前のLaser Notice No. 50に従って証明されたレーザ製品は、Laser Notice No. 50が取り下げられた後、Laser Notice No. 56に従って再設計、再評価、再証明を受ける必要がありますか?
いいえ。2025年1月1日より前にLaser Notice No. 50を使用して証明されたレーザ製品は、適合しているとみなされ、プロダクトレポートを提出することで米国での商取引に参入することができます。そのため、再設計、再評価、再証明する必要はありません。2024年12月31日より後に、製造業者がLaser Notice No. 50を使用しなければレーザ製品を証明できない場合、製造者は例外の申請をすることができます。
FDA (CDRH) レーザ規制に関する参考情報
外部リンク
e-CFR (Electronic Code of Federal Regulations) Title 21 - Food and Drugs Chapter I, Subchapter J - Radiological Health | 米国レーザ規制の原文が参照できます。 レーザなどの光放射について規定している Part 1040 だけでなく、関連する他の規定も理解する必要があります。 |
Laser Notice No. 56 Laser Products - Conformance with IEC 60825-1 Ed. 3 and IEC 60601-2-22 Ed. 3.1 | Laser Notice No. 56 のページです。 ページ内のリンクから原文 (PDF) が参照できます。 |
Laser Notice No. 50 Laser Products – Conformance with IEC 60825-1 and IEC 60601-2-22 | Laser Notice No. 50 のページです。 ページ内に原文テキストが記載されていますが、PDF版も参照可能となっています。 |
Form FDA 3632 Guide for Preparing Product Reports on Lasers and Products Containing Lasers | プロダクトレポートのフォーマットと、記入ガイドです。 サプリメンタルレポートも、このフォーマットを用いて作成します。 |
Form FDA 3636 Guide for Preparing Annual Reports on Radiation Safety Testing of Laser and Laser Light Show | アニュアルレポートのフォーマットと、記入ガイドです。 |