レーザクラス分けとAEL計算

レーザ製品のクラス分け (IEC 60825-1)

ここでは、 IEC 60825-1: 2014 の基準に基づいたレーザ製品のクラス分けについて説明します。FDA (21 CFR Part 1040) のレーザクラス分類とは体系が異なります。また、同じ IEC 60825-1 でも、年号(版)によって分類基準が変化しますので、注意が必要です。

各国のレーザ安全基準

各国のレーザ安全基準(安全規格)は国・地域ごとに異なりますが、その多くは IEC 60825-1 に整合していますので、 IEC 60825-1 の内容を理解して対応できれば、あとはデビエーション(国別の差分)を考慮するだけで対応国を増やしていくことができます。

ただし、市場規模の大きい米国の規制は、IEC 60825-1 に整合していません。Laser Notice No. 56 または No. 50 のガイダンスを利用することで、 IEC 60825-1 をベースに対応することもできますので、活用するのがよいでしょう。

留意事項

当ウェブサイトに記載の内容は、当方の規格解釈に基づくものであり、内容についての責任は一切負いません。また、簡略化のために詳細な条件については記載していない場合があります。実際の適用にあたっては、必ず原文を確認の上で適用してください。

レーザクラス分けの原則

レーザクラス分けの原則はシンプルで、レーザ製品の被ばく放出レベル(レーザ開口から放出されるレーザパワーの大きさ)と、各レーザクラスの被ばく放出限界 (AEL) を比較して、

被ばく放出レベル(レーザパワー) < 被ばく放出限界 (AEL)

であれば、そのレーザクラスに割り当てられます。

補足

例えば、目標とするレーザクラスが 2 で、AEL の計算結果が 1 mW だったとします。このとき、レーザ開口部から出てくるレーザ放射のパワーを規定通りに測定して 1 mW を下回る結果であれば、クラス 2 レーザ製品に割り当てられることになります。(ただし、ラベル表示など他のすべての要求事項を満足する必要があります。)

また、レーザクラス 4 は最大のレーザクラスですので、AEL を計算することができません。レーザクラス 3B の AEL を超えると、レーザクラス 4 に割り当てられます。

AEL (被ばく放出限界) の計算

AEL は、目標とするレーザクラスに対応した AEL 表の数値をもとに計算します。
表の縦軸はレーザの波長、横軸は放出持続時間となっており、対応する箇所を参照します。

表番号レーザクラス条件
表 3クラス 1 / 1MC6 = 1 の場合
表 4クラス 1 / 1M分散光源 (C6 ≧ 1) の場合
表 5クラス 2 / 2M-
表 6クラス 3RC6 = 1 の場合
表 7クラス 3R分散光源 (C6 ≧ 1) の場合
表 8クラス 3B-

分散光源と補正係数 C6

分散光源の AEL 表では、数値に補正係数 C6 が乗じられているため、C6 = 1 の場合に比べて AEL が大きくなり、レーザクラスの判定上有利となります。

これは、C6 = 1 の場合は光源の大きさが考慮されていない(点光源とみなす)のに対して、分散光源の場合は光源が一定の大きさを持っており、人体組織に到達するレーザのエネルギーが分散することから、エネルギー総量が大きくなっても眼障害のリスクは上昇しない、という考え方に基づいています。

分散光源として評価すべきか

レーザを分散光源として扱うことで AEL が大きくなるメリットはありますが、分散光源の AEL 計算やレーザパワーの測定が煩雑になるため、ミスが起きる原因になる他、時間的・経済的コストが大きくなるデメリットがあります。

分散光源の採用を検討する場合は、正しく AEL 計算やパワー測定ができるように専門家のアドバイスを受けるとともに、費用対効果を十分に考慮して決定しましょう。

時間基準

AEL 表の横軸(放出持続時間)のどこを参照するかについては、原則として、規格で定められている「時間基準」をもとに決定します。

条件時間基準(秒)
クラス 2 / 2M0.25
波長 400 ~ 700 nm のクラス 3R0.25
波長 400 nm 以下30,000
長時間の意図的観察が見込まれるレーザ30,000
上記のいずれにも該当しないもの100

レーザクラス分けに当たっては、0 秒~時間基準までのあらゆる時間に対して、レーザパワー < AEL を満たす必要があります。

しかし、実際に細かく時間を区切って計算しなければならないのかといえば、必ずしもそうではありません。AEL 表を検証すればわかりますが、当然ながら放出持続時間が長くなるほど AEL は低く設定されています。したがって、レーザの出力が一定である場合は、最も厳しくなる条件、つまり時間基準に対応する AEL に対してレーザパワーが下回っていることを確認できれば十分といえます。

AEL のグラフ

計算頻度が高いと思われる、時間基準をもとにした AEL のグラフを下図に示します。

時間基準をもとに計算した AEL のグラフ
時間基準をもとに計算した AEL のグラフ

前提条件は以下の通りです。

  • C6 = 1
  • 「長時間の意図的観察が見込まれるレーザ」には該当しない
  • 302.5 nm 未満の波長域は、測定条件 3 の開口絞り径が 1 mm であるため、その面積である 7.8 × 10-7 m2 を計算に使用

CW レーザの場合

レーザが CW (連続波) である場合の AEL 計算はシンプルです。AEL 表で時間基準に対応する箇所を参照しましょう。

時間的にレーザの出力が変動する場合など、時間基準より短い時間について AEL に対する余裕度が減少する可能性がある場合は、そのようなすべての条件で AEL を計算します。

パルスレーザの場合

パルスレーザや変調レーザの場合は、以下の 3 種類の AEL を考慮する必要があります。

AEL の種類説明計算方法
AELsingle単一パルスに対する AEL放出持続時間 = パルス幅 として計算
AELT (AELs.p.T)放出持続時間 T に対する AEL放出持続時間 = 時間基準 として計算
AELs.p.train補正係数 C5 を乗じた単一パルスに対する AEL
(波長 400 ~ 1,400 nm の熱的限界値比較の場合のみ対象)
AELsingle × C5
※Tiの時間内に複数のパルスがある場合は要注意

それぞれの AEL について、 0 秒~与えられた時間条件までのあらゆる時間に対して、レーザパワー < AEL を満たす必要があります。AELs.p.train の計算は複雑ですので、誤りがないように十分検証しましょう。特に、複雑なパルス列を扱う場合は注意が必要です。

AELsingle と AELs.p.train の関係

補正係数 C5 は必ず 1 以下になるため、常に AELsingle ≧ AELs.p.train が成り立ちます。したがって、 AELs.p.train が適用されるレーザの場合、 AELs.p.train を満たすように気を付ければ AELsingle の要件はおのずと満足されます。

被ばく放出レベル(レーザパワー)の測定

レーザパワーの測定条件

筐体外へ放射されるレーザパワーが最大になるような条件・手順でレーザ製品を動作させ、レーザパワーを測定します。基本的には、下記の測定条件 1 および測定条件 3 で測定をおこない、それぞれの測定値が AEL を下回る必要があります。

波長 (nm)測定条件 1
開口絞り (mm)
測定条件 1
距離 (mm)
測定条件 3
開口絞り (mm)
測定条件 3
距離 (mm)
302.5 ~ 40072,0001100
400 ~ 1,400502,0007100

測定条件 1 と測定条件 3 の意味合い

測定条件 1 は、望遠鏡や双眼鏡などを用いてビーム内観察をした場合に危険が増大するレーザの評価を意図しています。そのため、望遠光学系による観察が合理的に予見されない、屋内専用のレーザ製品に対しては適用不要とされています。

測定条件 3 は、裸眼でのビーム内観察の危険性評価を意図しています。例えば、400 ~ 1,400 nm に適用される開口絞りの径 7 mm は、ヒトの瞳孔の最大径を想定した数値であり、評価条件は生物物理学的な見地から決定されています。

測定条件 2 について

測定条件 2 は、IEC 60825-1: 2007(第 2 版)まで規定が存在していましたが、IEC 60825-1: 2014(第 3 版)への改版時に削除されました。多くの場合、測定条件 2 は考慮する必要がありません。

測定基準点

パワー測定対象のレーザ製品に対して、パワーメーターをどこに設置すべきか、を決めるのに必要になるのが、「測定基準点」です。各測定条件の距離の起算点、および、測定基準点の考え方は下表の通りです。

測定条件測定距離の起算点
測定条件 1被ばく可能な最近接点(レーザ出射口)
測定条件 3測定基準点
レーザ光源のタイプ測定基準点
半導体レーザ、SLD など発光体先端の物理的位置
走査形レーザ走査の頂点(走査ビームのピボット点)
ラインレーザラインレーザの扇形頂点
光ファイバ光ファイバ先端
拡散光源拡散光源の表面
その他ビームウエスト

特殊な形状のビームの場合は、複数の条件に当てはまるようなこともあるため、測定基準点の決定に迷う場合があります。そのような場合は、保守的に考えて不利なほうの条件を選択するのが無難でしょう。

単一故障条件の考慮

IEC 60825-1 における要求事項は、合理的に予見可能な単一故障条件においても満足する必要があります。レーザパワー < AEL の要求も満たさなければなりませんので、故障によりレーザ放射が増大する可能性のある設計の場合は、対策が必要となります。

レーザクラス 分類 / AEL 計算の参考情報

外部リンク

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JIS C 6802 「レーザ製品の安全基準」も閲覧することができます。