低電圧指令 (LVD) の要求事項
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低電圧指令 (LVD) 2014/35/EU
本ページでは、CEマーキング指令のひとつである、低電圧指令(指令 2014/35/EU)の概要と要求事項について解説します。低電圧指令は、英語俗称の "Low Voltage Directive" の訳語であり、その頭文字の略称から "LVD" と呼ばれることもあります。
低電圧指令の対象製品や適用範囲については、以下の別記事で紹介していますので、本ページの内容と合わせてご確認ください。
低電圧指令 (LVD) の目的
低電圧指令は、主に以下の2点を目的としている指令です。
- 電気機器は、人、飼育動物および財産に危害を与えない場合にのみ上市可能(第3条)
- 低電圧指令に適合する電気機器は、自由な移動・流通を妨げられない(第4条)
要するに、人などに対する安全を確保しながら、製品の自由流通を確保することを目的としています。
低電圧指令の安全目標 (附属書I)
低電圧指令の対象機器が達成しなければならない「安全目標」の主要素については、以下のように附属書 I に列挙されています。
- 一般条件
- 安全に、意図した用途のために使用されることを確実にするための基本的な特性は、機器に表示されるか、不可能な場合は付属文書に表示されていること。
- 機器は、その部品とともに、安全かつ適切に組立・接続されるように製造されていること。
- 機器は、意図した用途のために使用され、適切に保守される限り、危険源に対する保護が確実となるように設計・製造されていること。
- 電気機器から生じる危険に対する保護
- 人および飼育動物は、直接・間接的な接触により生じる物理的傷害やその他の危険から適切に保護されること。
- 危険を生じるような温度、アーク、または放射を発生しないこと。
- 人、飼育動物および財産は、経験上明らかな非電気的な危険から適切に保護されること。
- 絶縁は、予期される状況に対して適切であること。
- 電気機器に対する外部影響によって生じる危険からの保護
- 人、飼育動物および財産が危険にさらされないように、期待される機械的要求を満足すること。
- 人、飼育動物および財産が危険にさらされないように、予期される環境条件において非機械的影響に耐えること。
- 予見可能な過負荷条件において、人、飼育動物および財産を危険にさらさないこと。
安全目標に対する適合性確認について
上記の安全目標をひとつひとつ理解し、製品をこれに適合させることはもちろん重要ですが、安全目標は抽象的なものであり、個別の製品において、どのような設計や製造をおこなえば十分であるのかを判断することは容易ではない、といえます。
そのため、実務上は後述の 整合規格への適合 を通じて、安全目標への適合推定を得る、というのが通常のアプローチとなります。
また、整合規格がすべての安全側面をカバーしているとは言い切れないため、製品の リスクアセスメント を適切に実施することも重要となるでしょう。
低電圧指令 (LVD) の要求事項
ここでは、製造者および製品に対する低電圧指令の要求事項と、その要求事項に対してどのように適合していくべきかについて説明します。CEマーキング指令の標準的な適合手順については、以下にまとめていますので、合わせてご確認ください。
適合性評価手続 (モジュール) の選択について
附属書 III に記載されているように、低電圧指令の適合性評価手順 (モジュール) としては、内部生産管理 (モジュール A)のみが規定されています。
したがって、適合にあたって第三者認証機関 (NB) の関与は不要であり、製造者自身が適合性を判断して適合を宣言する必要があります。
整合規格の決定
低電圧指令への適合を考える場合、まずは製品に適用する整合規格を決定する必要があります。
整合規格の利用は必須ではありませんが、適切な整合規格に適合することは、安全目標への適合推定を与える(第12条)とされているため、利用できる場合は利用することが推奨されます。
整合規格ではない規格・技術基準の利用について
適切な整合規格がない場合は、まだ整合規格になっていない欧州規格 (EN規格) や、国際規格 (IEC/ISO規格) などの技術基準を利用することも可能です。
しかしながら、整合規格ではない技術基準に適合していても、安全目標への適合推定は与えられません。したがって、このようなケースでは、安全目標の達成にあたって、なぜその技術基準を採用したのか、を十分に説明できるようにしておくことが重要です。
低電圧指令の整合規格は、欧州委員会のウェブサイトで確認することができます。この整合規格のリストの中から、基本的には以下のような考え方に基づいて適切な整合規格を選択します。
- 適用範囲(スコープ)に当該製品が含まれる規格を適用すること
- 複数の規格が適用できるときは、より限定的な規格を適用すること
- 異なる安全側面の規格(水平規格)に該当するときは、製品規格に加えてその規格も適用すること
- 例えば、照明を備える機器は EN 62471、レーザを備える機器は EN 60825-1 も適用すべきと考えられます。
以下に代表的な整合規格の例を挙げます。適用対象は簡易的に記載したものですので、適用範囲(スコープ)の詳細は、各規格を参照してください。
規格番号 | 主な適用対象 |
EN 61010-1 | 測定用、制御用および試験室用の電気機器 |
EN 62368-1 | オーディオ・ビデオ、情報および通信技術機器 |
EN 60825-1 | レーザを搭載する機器 |
EN 62471 | LEDを含むランプ・照明を搭載する機器 |
適合性評価の実施
適用する整合規格が決定できたら、その規格の要求に基づいて、製品の設計確認 および 試験 によって適合性の評価を実施します。
整合規格に対する適合性評価の結果は、最終的に技術文書の一部(安全目標への適合推定の根拠)となりますので、きちんと文書化する必要があります。
レポートの形式について
試験報告書(テストレポート)の形式については特に指定されていませんが、特別な事情が無ければ、 IEC 規格に基づいたテストレポートフォーマット (TRF) を使用することを推奨します。認証機関が適合性評価の際に用いるものであり、対外的な説得力があるためです。TRF は IECEE のメンバーであれば無料で入手できますが、非メンバーの場合は IEC Webstore で購入する必要があります。
なお、欧州規格(EN 規格)と IEC 規格の間にはしばしば差分があります。差分がある場合は、IEC 規格の TRF を完成させるだけでは足りませんので、差分に対する適合性評価の結果も漏れなく記述しましょう。EN 規格の TRF も存在しますが、残念ながら利用できるのは IECEE メンバー限定であり、販売もされていません。非メンバーの企業の場合は、フォーマットを自作するなどの対応を取る必要があります。
適合性評価の実施主体について
低電圧指令は、適合性評価の実施主体についても、特に制限を設けていません。したがって、社外の試験所に評価を依頼しても構いませんし、自社内で評価を実施しても問題ありません。また、自社内で実施できない試験だけを社外の試験所に委託するといった対応も可能です。コスト等の都合を総合考慮して試験プランを策定するのがよいでしょう。
低電圧指令の話からは逸れますが、CEマーキングだけでなく、CB 認証や NRTL認証 (UL認証など) の第三者認証を取得する場合は、各認証に係る認定試験所で適合性評価を実施しなければなりません。自社内に認定試験所が無い場合は自社での試験を諦めることになりますが、適用する規格番号が共通なのであれば、EN 規格に対する差分についても認定試験所で合わせて評価してもらうことで、効率的に評価を進められるでしょう。
リスクアセスメントの実施
低電圧指令の附属書 III において、「技術文書は、リスクの適切な分析および評価を含まなければならない」とされています。
整合規格への適合性を示すテストレポートを作成できていても、リスクアセスメントの結果を文書化できていなければ、低電圧指令の要求を満たせているとは言えませんので、注意が必要です。
整合規格への適合は、安全目標への適合の推定を与えるものですが、整合規格が、製品の持つあらゆるリスクをカバーしているとは言い切れません。そのため、どのようなリスクがカバーされていないかを確認し、製品が安全目標を満たせているのか確認をする意味でも、製造者によるリスクアセスメントは重要となります。
もちろん、これは CE マーキング 対応をする場合だけでなく、市場に出す製品に責任を持つ製造者として実施するべきプロセスですので、これを機に製品のリスクマネジメントに取り組むのがよいでしょう。当方ではリスクアセスメントの支援サービスも提供しています。
技術文書の作成
技術文書は、製品が指令に適合していることを示す根拠となる文書です。低電圧指令では "Technical Documentation (TD)" と呼ばれていますが、一般にはその他の呼び方として "Technical Construction File (TCF)" といった呼び方もあります。
低電圧指令が適用される製品の技術文書には、少なくとも以下の要素を含める必要があります。(附属書 III)
- 機器の概要説明
- 部品やサブアセンブリ、回路などの概念設計図、製造図面、図式等
- 上記図面等および機器の動作を理解するために必要な記述・説明
- 適用した整合規格のリスト
- 整合規格が部分的に適用された場合は、どの部分が適用されたか
- 整合規格が適用されなかった場合は、適用した関連技術仕様のリストを含む、安全目標を満たすために採用した解決策の説明
- 実施した設計上の計算、試験や検査の結果
- 試験成績書(テストレポート)
- リスクの適切な分析および評価
技術文書の保管義務
製造者は、監視当局から要求があった場合に提供ができるよう、製品が上市されてから10年間、適合宣言書とともに技術文書を保管する義務があります。同一仕様の製品を継続して上市し続ける場合は、最後に上市した日から10年間です。
技術文書を記載する言語については規定されていませんが、監視当局の閲覧という目的から考えると、当局が容易に理解できる言語(例えば英語)で記載しておくのが望ましいと考えられます。
適合宣言書 (DoC) の作成
適合宣言書は、製造者(または認定代理人)が、製品が指令に適合していることを宣言する書類です。英語名称 "Declaration of Conformity" の頭文字から、"DoC" と呼ぶこともあります。
低電圧指令の適合宣言書には、以下の要素を含める必要があります。(附属書 IV)
- 表題: "EU Declaration of Conformity"
- モデル名 / 製品名(製品名、型式、バッチまたはシリアルナンバー)
- 製造者または認定代理人の名称および住所
- 適合宣言書が製造者の全責任の下で発行されている旨
- 宣言の対象物(トレーサビリティを可能にする電気機器の識別。必要な場合は、十分に明瞭なカラー画像を含めても良い。)
- 上記の宣言の対象物が、関連するEU整合法令に適合している旨
(適合を宣言する指令等のリスト) - 適合宣言にあたって使用した、関連する整合規格、または、他の技術仕様への参照
- 適合宣言書の発行場所、発行日
- 代表者の氏名、肩書(役職)、署名
複数のEU整合法令でカバーされる機器
通常、低電圧指令が適用される機器は、EMC指令やRoHS指令といった、他のEU整合法令も同時に適用されます。
このような場合、当該機器に適用されるすべてのEU法令が特定できるように、すべてのEU法令に対して、単一の適合宣言書を作成しなければなりません。
適合宣言書の翻訳
適合宣言書は、機器が上市された国が要求する言語に翻訳される必要があります。どの事業者が翻訳をすべきかは規定されていませんので、製造者、輸入者などの関連する事業者のうちだれが翻訳をおこなうのか、取り決めておくべきでしょう。
なお、オリジナルの適合宣言書の言語については特に指定されていませんが、実務上は英語をオリジナルとし、上市する国の言語に翻訳することが多いと考えられます。
識別情報の表示
機器には、トレーサビリティを確立するために必要な情報(具体的には以下の通り)を表示する必要があります。機器の識別情報に関しては、技術文書やEU適合宣言書とのリンクが明確であることが重要です。
- 機器の識別情報(型式、バッチ、シリアル番号等)
- 製造者の名称または登録商標、および、連絡可能な単一の住所
※監視当局が容易に理解できる言語で提供すること
これらの情報は、機器の大きさや性質から機器上に表示できない場合、包装や付属文書で代替表示することが認められています。機器上に表示できるかどうかの判断は、製造者の裁量ですが、単にデザイン的・意匠的な理由で表示しないのは NG です。
なお、製造者が EU 域外にある場合は、EU 域内への輸入業者が別に存在することになるため、
- 輸入業者の名称または登録商標、および、連絡可能な単一の住所
※監視当局が容易に理解できる言語で提供すること
も表示しなければなりません。これもまた、機器上への表示が困難な場合は、包装や付属文書で代替表示することが認められています。例えば、輸入業者の情報を表示するために開梱が必要になる場合などは、包装上に表示をおこなえば十分です。
取扱説明書および安全情報の提供
製造者は、製品の 取扱説明書 および 安全情報 を機器に添付しなければなりません。安全情報は、取扱説明書と一体になっていても問題ありません。
また、取扱説明書 および 安全情報(ラベル表示も含む)は、消費者や他のエンドユーザーが理解可能な言語で提供するとともに、意味明瞭かつ理解可能な内容でなければなりません。
取扱説明書および安全情報の言語
エンドユーザーが理解可能な言語は、加盟国によって決定されます。実務的には、原則として上市する国の公用語で提供することが要求されるでしょう。
提供されるユーザーが限定される等、特別な事情があれば、そのユーザーが理解できる言語のみで提供することが正当化できるかもしれません。いずれにしろ、その製品のユーザーが通常用いる言語は何なのか、を十分に考慮して提供言語を決定する必要があります。
適合性の維持
製造者は、製品(量産品)の適合性を維持しなければなりません。CEマーキングへの適合を考える際は、CEマークの貼付までに必要なことはもちろん、その後の維持管理についても合わせて検討する必要があります。
適合性の維持に関して、特に注意すべきなのは以下の2点です。
- 部品、設計、製造・検査工程など、製品に関する変更
- 整合規格など、法令や技術基準に関する変更
いずれの変更に対しても、変更があった際はその内容を確認し、従前の適合性に関する判断に影響があるかどうかを確認・記録していく必要があります。
製品に関する変更は、少なくとも技術文書の内容に影響を与える可能性が高いので、適切に技術文書(場合によっては適合宣言書も)の更新をおこないましょう。整合規格の適合性評価(試験含む)やリスクアセスメントの結果に影響を与える変更と判断される場合は、変更後の製品に対して再評価が必要となります。
また、整合規格の更新についても注意が必要です。 整合規格のリスト(外部リンク)にある規格の撤回期限 (DOW, Date of Withdrawal) を過ぎると、その整合規格はもはや適合推定を与えません。製品に一切変更を加えていなくても、整合規格の有効期限を管理し、新規格での再評価が完了できていないと、不適切な状態となってしまいますので、十分に注意しましょう。
DOWと置換される規格の例
例えば、EN 61010-1:2010 の DOW は 2022年5月30日 とされていますので、それまでに EN 61010-1:2010/A1:2019 での再評価を完了している必要があります。
また、EN 60825-1:2014 の DOW は 2023年6月21日 ですので、それまでに EN 60825-1:2014/A11:2021 に基づいた適合宣言をおこなう必要があります。
規格更新にともなう設計変更
整合規格の変更内容によっては、従前の設計のままでは新規格に適合できない、というケースがあります。その場合、CEマーキングを引き続き貼付するためには、設計変更が伴うことになります。
この場合、以下のように、製造者が実施しなければならないタスクが非常に多くなります。
- 新規格に適合できる製品の設計
- 設計変更後の製品サンプルに対して、適合性評価(試験)を実施
- 技術文書および適合宣言書の更新
- 旧設計の製品の在庫管理
- DOW を過ぎると、旧設計品は基本的に上市できません。したがって、在庫を廃棄しなければならない事態を回避するためには、いち早く新設計品の製造に切り替えて旧設計品の在庫を抑え、DOW までに上市を完了させる必要があります。
これらのタスクを DOW までに完了させなければなりませんので、低電圧指令に限らず、適用している指令や整合規格の更新情報は、常に可能な限り早く入手できるように努めましょう。
低電圧指令 (LVD) における各事業者の義務
低電圧指令では、各事業者に対して義務事項を列挙しています。
ここでは、参照する頻度が比較的高いと思われる、製造者および輸入業者の義務について簡単に紹介します。詳細には触れませんので、必要に応じて指令原文やガイドラインを参照してください。
製造者の義務
重要なポイントについては、すでに「低電圧指令の要求事項」として述べた通りですので、各項目の解説を参照してください。製造者の義務は、以下の通り列挙されています。(第6条)
- 第3条と附属書Iに示された安全目標に従って、設計及び製造を確実にすること
- 技術文書(附属書III)の作成、適合性評価手順の実施、EU適合宣言書の作成、CEマークの貼付
- 技術文書、EU適合宣言書の10年間の保管
- 量産品の適合性維持
設計・特性変更、整合規格等の技術基準の変更を考慮すること
必要に応じて、抜取試験・調査、リコール情報保管、監視結果の連絡等 - 機器の識別情報の表示
- 名称、商標及び連絡可能な住所の表示
- 取扱説明書・安全情報の付属
- 回収・リコールの実施
- 当局要求への対応
輸入業者の義務
輸入業者の義務は、以下の通りです。(第8条)
- 適合した機器のみを上市すること
- 上市前に、製造者による適合性評価手続の実施を確認すること
技術文書の作成、CEマークの表示、必要な文書の添付、識別情報の表示がされていることの確認
必要に応じて、上市の停止、製造者および監視当局への報告 - 輸入業者の名称、商標及び連絡可能な住所の表示
- 取扱説明書・安全情報が付属されていることの確認
- 安全目標への適合性を脅かさない保管・輸送
- 必要に応じて、抜取試験・調査、リコール情報保管、監視結果の連絡等
- 回収・リコールの実施
- EU適合宣言書の写しの10年間の保管
技術文書を要求に応じて利用可能とすること - 当局要求への対応
取引先情報の提供義務
事業者(製造者、輸入業者、その他流通業者)は、監視当局の要求に応じて、その機器を誰から供給されたか、および、誰に供給したか、を特定して情報提供しなければなりません。(第11条)
その期間は、それぞれ供給を受けてから、または、供給してから10年間です。
低電圧指令 (LVD) の参考情報
外部リンク
低電圧指令 (LVD) 2014/35/EU | 低電圧指令 (LVD) 2014/35/EU の原文を確認できます。 |
Low Voltage Directive (LVD) | EU総局のウェブサイトです。 低電圧指令のガイダンスなど、関連情報がまとまっています。 |
Blue Guide | CEマーク を含むEU市場の製品規則についての公式ガイドです。 |